高級レストランで料理より会計を押し上げるのは、たいていワインである。同じボトルでも、頼み方によって支払う金額と店側の利益は大きく変わる。本稿では、ワインリストの利益構造をグラス提供とボトル販売の粗利差から分解し、注文時の判断材料を整理する。
ワインの原価率は料理と違う
飲食店の原価率は、料理でおおむね30〜40%程度が目安とされることが多い。ワインの原価率はこれと大きく異なり、業態にもよるが仕入れ値の3倍前後を掛け率とする店が一般的とされる。原価率に換算すると30%台前半となり、数字だけ見れば料理と近い水準に見える。
違いが表れるのは、原価が変動しにくい点にある。料理の原価は仕入れ状況で日々変わるが、ワインは仕入れ値がほぼ固定されており、粗利額も安定して積み上がる。高級店の収益構造において、ワインが「安定した利益源」として扱われる理由はここにある。
さらに、抜栓・保管・グラス提供といった作業には人件費が発生するが、追加の仕込みが不要な点で、料理より粗利に対する労働コストの負担が軽い。ワインリストの充実に力を入れる店が多いのは、味の演出だけでなく、この収益性の高さが背景にある。
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グラスとボトルで粗利率が変わる
同じワインでも、グラスで頼むかボトルで頼むかによって、店側の粗利率は変わる。
| 提供形態 | 特徴 | 店側の粗利傾向 |
|---|---|---|
| グラス提供 | 1本を数杯に分けて提供 | 粗利率が高い(端数の廃棄リスクを価格に転嫁) |
| ボトル販売 | 1本をそのまま提供 | 粗利率はやや低いが確実に回収できる |
| ペアリングコース | 料理に合わせて数種を少量ずつ | 粗利率が最も高い部類に入る |
ボトル1本を1万円で仕入れ、グラス6杯に分けて1杯2,500円で提供すれば、売上は1万5,000円となり、粗利は5,000円になる。ただし抜栓後のワインは酸化が進むため、営業時間内に売り切れなければ廃棄になる。この廃棄リスクを吸収した価格設定がグラス単価であり、グラスワインが「高く感じる」理由は、単価の中に廃棄コストが織り込まれているためだ。
ペアリングコースは、この構造をさらに徹底させたものと捉えられる。1皿ごとに数十ml単位で提供するため、1本のワインから10杯前後を確保できる場合もあり、単品グラスより粗利率は高くなりやすい。客の側から見ればペアリングは割高に感じられがちだが、店にとっては在庫回転と粗利の両面で最も効率の良い提供方法である。
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ボトルワインの価格設定の裏側
ワインリストの価格は、単純な掛け率だけで決まっているわけではない。
高額帯のワインほど掛け率は低く設定される傾向がある。仕入れ値5万円のワインに3倍の掛け率をかければ販売価格は15万円になるが、この価格帯で数量を動かすのは難しい。高額帯では掛け率を1.5〜2倍程度に抑え、注文されやすい価格に調整する店が多いとされる。
逆に、低価格帯のワインは掛け率を高めに設定しやすい。仕入れ値3,000円のワインを3倍の9,000円で提供しても、コース全体の価格に対する違和感が出にくいためだ。
つまりワインリストは、価格帯ごとに掛け率が一様ではない。安いワインほど利益率が高く、高いワインほど利益率が薄い構造は、高級店に限らず多くのレストランで共通してみられる。
食べログでの実食記録を通じて価格帯を見比べると、掛け率を抑えた高額帯のボトルほど、実際にオーダーが集中する傾向を感じている。店側が値ごろ感を作り出すために掛け率を調整している以上、高額帯のワインを選ぶこと自体が、店の価格設計に乗った合理的な選択になっている場合が多い。
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注文時にどう判断するか
この構造を踏まえると、注文の場面でいくつかの判断がしやすくなる。
会食で1〜2杯程度しか飲まない参加者が複数いる場合、ボトルよりグラスの合計のほうが飲んだ量に対して割安になることがある。逆に、3杯以上飲む予定があるなら、ボトル注文のほうが1杯あたりの単価は下がりやすい。
高額帯のボトルを検討する場面では、掛け率が抑えられている分、価格に対する満足度は相対的に高くなりやすい。予算に余裕がある会食では、中価格帯を複数本より、印象に残る1本を選ぶという判断も合理性を持つ。
ペアリングは、料理との組み合わせを店に委ねられる利点と引き換えに、粗利率が最も高い形態を選んでいることになる。演出としての価値を重視するか、コストの効率を重視するかで、選択は分かれる。
よくある誤解
誤解1:グラスワインは店が儲けるために高く設定されている。 廃棄リスクを吸収するための価格設計であり、単純な利益の上乗せではない。
誤解2:高いワインほど店の利益率も高い。 実際は逆で、高額帯ほど掛け率は抑えられる傾向にある。店の利益率が最も高いのは中低価格帯のワインである。
誤解3:ペアリングは単品より必ず割高である。 1本から得られる提供数を考えれば、単価としては合理的な設計であり、演出の対価として妥当な範囲に収まる場合が多い。
まとめ
- ワインの原価率は料理と近い水準だが、仕入れ値が固定的で人件費負担も軽く、安定した利益源として扱われる
- グラス提供は廃棄リスクを価格に織り込むため、ボトル換算より単価が高くなりやすい
- ペアリングコースは1本から得られる提供数が多く、粗利率が最も高い部類に入る提供形態である
- ボトルの掛け率は価格帯ごとに一様ではなく、高額帯ほど掛け率は抑えられ、低価格帯ほど利益率は高くなりやすい
- 飲む量が少ない参加者が多い会食ではグラスの合計、3杯以上飲む予定があるならボトルのほうが単価は下がりやすい
- ペアリングは演出の価値とコスト効率のどちらを優先するかで選択が分かれる
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亀山容三。株式会社スマートコネクション代表取締役。MBA・経営コンサルタント。食べログ4,000件超・GoogleローカルガイドLv10。経営者視点で高級レストラン情報を発信。